写真:セイロン島のシンボル、アダムスピーク遠景
シンハラ語で「光り輝く島」の意味を持つスリランカ。
世界有数の紅茶産地として名高いこの国は、セイロンと呼ばれていた時代があります。
スリランカ産の紅茶の総称として、かつての国名を残した「セイロンティー」。
歴史とともに、その魅力をひも解いていきます。
特集「セイロンの名を継ぐ紅茶」目次
「聖なる島・光り輝く島」を意味するスリランカ
赤道に近いインドの東南端、ポーク海峡を隔てたインド洋上に浮かぶ小さな島国スリランカ。宝石やシナモンをはじめとした香辛料の産地であり、ヨーロッパとアジアをつなぐ海上貿易の要、インド洋交易圏の中継貿易を行う拠点として栄えました。しかし15世紀以降の大航海時代を迎えると、ポルトガル、オランダ、イギリスなど、次々に大国の植民地化という運命を辿ります。
また、スリランカは長らく複雑な民族問題を抱えてきました。紀元前、北イ
ンドから移住した仏教徒のシンハラ人による国家が成立してからも、南イン
ドからヒンドゥー教徒のタミル人が、また沿岸部にはムスリム商人であるムーア人や外国から来た人々などが移住するなど、長年にわたって様々な民族による都市や王国が誕生と分裂を繰り返してきました。
16世紀からの植民地化の時代、島の中央部に残されたキャンディ王国が、1796年から始まるイギリス軍との戦争に敗北し1815年に崩壊。これにより全島がイギリスの植民地となりました。そして、1972年に完全独立をした際に正式国名を「聖なる島・光り輝く島」を意味する「スリランカ」へと変更されました。
ヌワラエリヤの茶摘み風景
世界有数のコーヒー生産国だった、セイロン
スリランカでは、北海道の8割程度の大きさといわれる島の中心に聳える(そびえる)ピドゥルタラーガラ山 ( 2,524m) を最高峰として、2,000m級の山々が連なる山岳エリアから南部にかけての丘陵地帯を中心に、それぞれの気候風土を生かした多彩な紅茶が作られています。
16世紀以降より植民地支配を受けていた当時のセイロンでは、オランダ統
治時代の17世紀以降、コーヒーを中心としたプランテーションが作られてい
ました。イギリスの統治下となった19世紀以降、寒暖の差が激しく雨も多い
内陸部の地形を利用し、コーヒー生産は一大産業として発展し、1858年には、キャンディと港町コロンボ間を走るコーヒーを輸送するための列車も
開設。19世紀中頃には世界有数のコーヒー生産国となりました。
しかし、1860年代にさび病と呼ばれるコーヒーの木を襲う伝染病が発生。育てた木が次々に枯れていく被害が拡大してしまいます。今や世界中に名を馳せるセイロン紅茶の歴史は、ここから始まりました。
英国統治時代のセイロン茶産地地図(1934)。現代の産地分布にほぼそのまま引き継がれている
セイロンティーの父、ジェームス・テイラー
セイロンティーの本格的な歴史は、1867年、スコットランド人のジェームス・テイラーが、コーヒー園に代わる事業として、スリランカ初の茶園を設
立し紅茶の製造を開始したことに始まります。
テイラーがスコットランドからセイロンに移住したのは、コーヒーブームが始まったばかりの1852年。ところがさび病の発生により、コーヒーの栽培に危機が訪れます。そこで彼は、キャンディの地にルーラコンデラ茶園を開墾し、チャの木の栽培を開始したのです。その後、リプトンをはじめとする英国の資本がセイロン紅茶の可能性に注目し、1878年にはついにセイロンティー10箱の取引がロンドンで初めて行われ、予想外の高値をつけたことを機にセイロンのコーヒー園は次々とお茶のプランテーションに代わりました。労働者不足を補うため、インドからの移民も始まり、1920年代にはセイロンの紅茶生産量が年間20万トンにまで増えました。
その後も南部を中心に産地が広がっていき、現在は年間平均25〜30万トンの紅茶を製造。130 万トンのインド、50万トンのケニアと並ぶ、世界的な紅茶の主要産地です。
ジェームス・テイラー
国旗・セイロンの名称の由来
紀元前5世紀の初代王朝の王族が、ライオン(獅子)と人間との間に生まれたシンハ(サンスクリット語)を名乗り、子孫はシンハラ、島の名をシンハ・ディーパとした。アラブ人商人が島の名を訛ってセレンディープと呼んだことから、16世紀に来島したポルトガル人はセイラーン、イギリス人によりセイロンと変化した。1948年イギリス連邦内の自治国「セイロン(ライオンの島の意)」として独立。その後、1972年にシンハラ語で「輝く/聖なる(シュリ)・島(ランカー)」を意味するスリランカへ正式国名が変更された。
特集「セイロンの名を継ぐ紅茶」目次
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