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旅する世界のティータイム。世界各国の人々はどのようにお茶を楽しんでいるのでしょうか。
今回の舞台はイタリア。コーヒー大国で知られるイタリアならではのお茶事情を、ミラノ在住のライターがレポートします。
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【レポートしてくれた方】
Ikuko Nakai
イタリアミラノ在住20年以上。ミラノ市内の広告代理店でグラフィックデザイナーとして勤務後は、イラストを描きながらライター、アテンドや通訳などマルチに活動。
お茶を飲んでいると心配される!?
エスプレッソ発祥の地でもあるイタリアは、言わずと知れたコーヒー大国。街には、バールと呼ばれるカフェがそこかしこにあり、気軽にコーヒーが楽しまれています。
お茶を飲む習慣はあまりなく、どこのバールのメニューを見ても、あるのはせいぜいティーバッグの紅茶くらい。面白いことにイタリアでは、お茶は体調の悪い人が飲むという印象があるのだそう。行きつけのバールでお茶を注文すると「どうしたの? 具合が悪いの?」と心配されることも。イタリア人にとって、お茶は風邪をひいた時に体の調子を整えるものという位置づけなのです。
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イタリアの街中にあるバールは、イタリア人の憩いの場。
麦コーヒー「オルヅォ」とは?
イタリア人の一日は、コーヒーで始まりコーヒーで終わる、といっても過言ではありません。イタリアに20年以上住んでいる私も、すっかりイタリアの文化や生活が沁みついており、朝はコーヒーで始まります。ただ、胃腸の弱い私はカフェインを取りすぎないように気をつけており、そんな時によく飲むのが「オルヅォ」です。
オルヅォとは、古代種の大麦をじっくりと焙煎した、カフェインを含まないエスプレッソ風の飲み物。いわばイタリアの麦茶なのですが、この国では「麦茶」としてではなく、体によい「麦コーヒー」として親しまれています。香りは日本でおなじみの麦茶をもっと炒ったような深みがありますが、味や舌触りはまさにコーヒーそのもの。カフェインを気にしなくていいので、一日に何杯でも飲めてしまいます。
ノンカフェインのオルヅォは、子供や妊婦さん、お年寄りにも大人気。今、イタリアで巻き起こっているウェルネスブームの中、健康飲料としても注目されています。
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イタリアの定番朝ごはん。大きなカップにたっぷりの牛乳(ラテ)とオルヅォでオルヅォラテを作り、朝食用ビスケットを浸して食べます。
イタリアの日常に溶け込むオルヅォ
オルヅォはバールでもお馴染みです。普通のコーヒーマシーンの隣にオルヅォ専用の小さなマシーンがあり、ここから抽出してくれます。バールの店内を見ると、家族に連れられた子供が背伸びしてオルヅォをコーヒーのように飲んでいる姿も。そんなほほえましい様子を眺めていると、こうやって小さいころからイタリアのコーヒー文化に育てられていくんだな……と、あらためて感じます。
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もちろん、オルヅォは家庭でも一般的。スーパーの棚を見ると、ココアやホットチョコレートなどと同じポジションにオルヅォが置かれています。スーパーで販売されているオルヅォは顆粒状、粉状、カプセル式と大きく3種類あり、ポピュラーなのがお湯や牛乳で溶ける顆粒状の「SOLUBILE」。インスタントコーヒーと全く同じ要領で、マグカップに小さじ1杯のインスタントオルヅォをお湯や牛乳と一緒に混ぜて出来上がり。手軽に飲めるので、一般家庭によく常備してあります。
一方、本格的に麦の香りを楽しみたい人には、麦を挽いた粉「TOSTATO MACINATO」が人気です。いれ方はエスプレッソコーヒーと同じで、マキネッタと呼ばれる直火式のエスプレッソマシーンを使うと、エスプレッソ状のオルヅォが抽出できます。
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手軽にいれられる顆粒状のインスタントオルヅォ。
カトリックの国イタリアでは、日曜日のミサが終わると、家族や親戚同士で集まってお茶会をするのが古くからの伝統です。お茶会に欠かせないのは、「パスティッチーニ」というプチケーキタイプのドルチェたち。通常、日曜日は閉まってしまう個人商店も、パスティッチェリア(生菓子屋)だけは、このために午前中は営業しています。イタリア人にとって日曜日は、コーヒーやオルヅォを飲みながら、おしゃべりをして家族の絆を深める大切な日です。
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パスティッチェリアのショーウィンドウに並ぶ小さなドルチェ。たくさんの種類があって目移りしてしまいます。
健康志向で高まるお茶への関心
コーヒーが主流のイタリアでは、前述の通り、お茶はあまりメジャーな飲み物ではありません。イタリアの麦茶オルヅォも、あくまで「麦コーヒー」としての位置付けです。
ただ最近では、イタリアのお茶事情にも少しずつ変化が起きています。大都市部に行くとさまざまな種類の紅茶や緑茶、台湾茶、南米のマテ茶などの茶葉を扱うお茶専門店が増えているほか、正しいお茶のいれ方を教えてくれたり、テイスティングができるお店が登場し始めていたり……。背景には、イタリア人の健康志向が年々高まっていることがあるようです。
まだまだコーヒーのイメージが根強いイタリアですが、お茶好きの私としては、これからイタリアにもお茶専門店が増えることを楽しみにしています!
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さまざまな茶葉を扱うミラノのお茶専門店の様子。
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