儚くも愛おしい、一碗の芸術
今から千年以上前の中国で、茶の表面に絵や文字を描く「茶百戯(ちゃひゃくぎ)」という茶文化が流行しました。一見すると、現代でいうラテアートのルーツのようにも思えますが、はたして違いはあるのでしょうか。
特集 マッチャでアート! 目次
点てた茶の泡に湯や水で白い模様を描く「茶百戯」は、中国で唐の時代(618~907年)に栄え、とりわけ宋代(960~1279年)の文人たちに好まれ、余暇に楽しんだり、客をもてなしたり、思想を表現する手段として繁栄しました。
一方、ラテアートは、1980年代後半にイタリア・ミラノのバールでカプチーノの上にハートが描かれたのが始まりといわれています。当初は、エスプレッソを入れたカップに蒸気で空気を含ませたミルクを注ぎ、ハートやリーフなどシンプルな模様を描くのが基本でしたが、世界的な流行とともに複雑で芸術的なデザインが生まれています。
技法や時代背景は全く異なるものの、どちらも味わうだけでなく、儚く消えてしまう一瞬のアートを愛でながら、消えゆくまでのひと時を楽しむという魅力に、違いはなさそうです。
「茶百戯」では、茶炉、茶瓶、茶筅、茶缶、茶碗、茶托など、少なくとも10種以上の道具が使用される。
章 志峰
Shou Shihou
しょうしほう/ 「茶百戯」の研究・継承者。1984年7月、福建農業大学園芸学部茶学専攻を卒業後、1997年から1年間、日本に留学。茶葉、華道、農業管理を学ぶなど「 茶 百戯」を蘇らせるべく、20年以上にわたる探究と科学的な実践を繰り返し、2005年には古代の記録などに基づき、「茶百戯」で使用されていた宋代の研膏茶(けんこうちゃ)(※1)の技術を初めて復元した。2009年より章志峰のチームが清華大学、北京大学など40以上の大学で「茶百戯」を教え、国内外で1000人以上の専門家を育成するなどして「茶百戯」を復活させた。2022年には文化輸出としてスイスのジュネーブの国連メディアに紹介され、世界へ発信するまでに至る。その後、2022年に配信され、中国歴代記録を塗り替えた大ヒットドラマ『夢華録(むかろく)』の中で、「茶百戯」が取り入れられ、国内の若者にも広く知られるようになった。
※1/研膏茶は、古代中国で作られた固形茶の一種。製茶方法が複雑で宋代の頃には、墨を模し様々な装飾の施されたお茶となり、皇帝への献上茶とされた。
茶をキャンバスに水で描く中国の文化遺産
茶の表面に、鳥獣や虫、魚、草花などが白一色の繊細な線で描かれる「茶百戯」。宋の時代には茶を嗜む際の流行でもあり、一国の皇帝から文士に至るまで多くの人々がこの技術に熟練していたといいます。
特徴は、無色透明の水や湯を使って描く点。茶を点て、表面に安定した泡が形成された時、水で描いた部分は薄まって白く変化し、水を加えていない部分は元の茶の色を保ちます。その結果、色の差が生まれて模様が形成されるという技法で、中国の文字や絵画を液体で表現する中国独自の芸術とされ、「茶碗の中で描かれる水墨画」ともたとえられていました。
描いた模様はすぐに消えてしまうため、その儚さに神秘的な魅力がある反面、茶をかき混ぜ続けることで、一杯の茶で何度も異なる模様を描くことができるのも大きな特徴です。
「動きや変化に富み、その独特な趣や深い意味合いを見事に際立たせる「茶百戯」は、古典的な歴史文化であると同時に、新しい芸術表現の形でもあります」
時代の流れとともに、一度は失われかけていた「茶百戯」を現代に復活させ、継承する第一人者として精力的に研究と活動を続ける章志峰さんは、そう語ります。
30年以上の歳月をかけ、「茶百戯」のキャンバスとなる研膏茶の再現に始まり、緑茶をはじめ烏龍茶や紅茶など、様々なお茶での再現を成功させたその技術は、2017年、武夷山市の無形文化遺産に正式に登録され、33件の国家発明特許を取得するまでに至ったのです。
水と研膏茶の粉末のみを原料とし、湯瓶(湯を注ぐ器)で湯を注ぐ、または茶匙で水を加えることで、茶の泡の上に描いていく。文字や絵を描く姿も優雅で美しいと、その所作も人々を魅了している。
参考・引用
『今日中国』/ http://www.chinatoday.com.cn/ctchinese/zhuanti/2014-10/11/content_649656.htm
『 環球文化網』/ https://www.hqwhw.com/cul/chuantong/2889.html
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