お茶好きの茶話会:紅茶篇

世界中で飲まれているお茶の中で、最も多いのが紅茶です。お茶全体の、実に半数以上を占めます。お茶文化が浸透している日本でも同じく、緑茶とともに私たちの生活になじんでいます。紅茶には、産地や季節別の商品もあれば、それらをブレンドしたものもあります。さらに、香料などで香りをつけたフレーバードティーも数知れません。
寒い時は体を温めてくれたり、アフタヌーンティーではスイーツと楽しんだりと、日常から非日常のシーンまで、関わりの深い飲みもののひとつだといえます。
さて、「日本茶篇」「台湾茶篇」に引き続き大のお茶好きスタッフが集まって、愛すべき紅茶の魅力を語り合う「茶話会」を開きました。それぞれの紅茶ごとに「マイルール」や「推し」を持つスタッフの話は、いやが上にも盛り上がります。
皆さんに「これだけは伝えたい!」紅茶の魅力を厳選してご紹介します。

これだけは伝えたい! 紅茶の魅力

17世紀頃に誕生した紅茶の起源について諸説ありますが、緑茶や烏龍茶と同様に中国が発祥の地。
カップの中でオレンジ〜紅色に輝く色味が特徴で、不発酵の緑茶(Green Tea)にくらべ、発酵した茶葉が黒いことから、英語ではブラックティー(Black Tea)と呼ばれています。
イギリスの硬水でいれることで、水色(すいしょく:お茶をいれたときの色)が黒っぽく見えるのもその由縁です。
とはいえ、日本の「紅茶」の名が、私たちにはしっくりなじみますね。

01.旬に注目すると、味わい方が変わります。

日本茶に旬があるように、実は紅茶にも旬と呼ばれるクオリティーシーズンが楽しめる産地があります。
しかも、味や香りが最も際立つ時期は一年に一度だけとは限りません。たとえばインドのダージリンでは、春・夏・秋と一年に3回も旬が訪れます。

春に芽吹く若葉の香りが軽やかなファーストフラッシュ( 春摘み)。セカンドフラッシュ(夏摘み)は、ワインやブドウのような円熟した風味と香りに。オータムナル(秋摘み)になると、華やかさがありながら渋みは少なく、一年で最も甘みが際立つなど、異なる味わいに驚かされます。

「一年中、世界の産地からクオリティーシーズンのお茶が届く楽しさは、紅茶ならではです」(Aさん)
「私は自分のメンタルや体調のサイクルに、紅茶の旬がマッチしている気がするので、毎シーズン心待ちにしています」(Bさん)

02.ブレンドティーは、一流の工芸品と同じです。

紅茶は農産物です。茶葉の良し悪しは年によって異なります。そこで、いつでも同じ味や香りを楽しめるように、紅茶の特徴を熟知したブレンダーが、品質の異なる茶葉を調合し、年中変わらない安定した品質の「ブレンドティー」を作るのです。また、数種類から数十種類の茶葉で、新しい味と香りを作り出せるのもブレンドの妙と言えるでしょう。

「ブレンドティーは、毎年同じ味に仕上げられていて、まるで高度な技術を持った職人が作る工芸品のようです」(Aさん)
「オリジナルブレンドの『ユニオンジャック』は、硬水でいれたイギリスの紅茶の風味を日本の軟水で再現したユニークな商品です」(Bさん)
ユニオンジャック – 50g 袋入

03.紅茶と水は、切っても切れない関係です。

紅茶は、いれ方にフォーカスされがちですが、意外と忘れられているのが水との関係。
たとえば、イギリスは地域によって水の硬度が異なり、イングランド北部やスコットランドなどは、
日本と同じ軟水のエリア。ところがイングランド南東部は硬水のため、ロンドンでは硬水用ブレンドの紅茶が多く売られています。

紅茶の味にも違いが現れます。硬水でいれた紅茶はどっしりとした飲み応えがあり、水色は濃くなります。
紅茶の味を十分に引き出したいなら、ミネラル分の少ない軟水がおすすめです。日本の水はほとんどが軟水で、水道水でもおいしい紅茶がいれられます。

「インドなどへ茶葉を買い付けに行く時に、日本の軟水を背負っていきます。現地でおいしくても、日本の水でおいしいかどうかが肝心です」(Cさん)
「パリ店で販売しているお茶は、現地の水にあわせてブレンドを変えています」(Dさん)
「ヨーロッパでフレーバードティーが主流なのは、茶葉の繊細な味を感じにくい硬水の地域が多いからだと聞いたことがあります」(Aさん)

04.最上級紅茶の代名詞「ダージリン」。

〝紅茶のシャンパン〞や〝紅茶の女王〞とも呼ばれ、世界中で愛されているダージリン。大の紅茶好きではなくても、一度はその名を耳にしたことがあるはず。紅茶の生産国は数多くありますが、世界で最も有名な高級紅茶産地といえば、真っ先に挙げられるのがインド・ダージリン地方です。ヒマラヤ山脈のふもとにある茶畑で作られる紅茶は、その香り高さ、気品あふれる味わい、インド産紅茶のうち、たった1%程度しかない希少性から芸術品とも称されています。また、緑茶のように青々と仕上げられたファーストフラッシュの茶葉から生まれる黄金色の水色には、きっと驚かされることでしょう。

「ファーストフラッシュを初めて体験した時は、紅茶に対するイメージを覆されました。緑茶好きの方にも、ぜひ体験して欲しいです!」(Dさん)
ルピシアのダージリン ファーストフラッシュ

05.レモンティーといえば「ニルギリ」。

世界最大の紅茶生産国インドで、ダージリン、アッサムと並ぶ紅茶産地。現地語で「青い山」を意味するニルギリは、紅茶のブルーマウンテンとも呼ばれ、その茶園は、主に南インドの標高約1000メートルを超える高地に点在しています。南国の果実を思わせる優しい香りと甘み、伝統的な紅茶らしい風味が特徴で、親しみやすい風味で愛されています。高地産のニルギリの旬は主に1月〜2月頃。柑橘にもたとえられる、爽やかな香気や甘みが凝縮したクオリティーとして知られています。

「レモンを入れたら、何でもレモンティーになると思ったら大間違い。入れるべき紅茶があると、ニルギリが教えてくれました」(Bさん)
ルピシアのニルギリ

06.ミント香がクセになる「ウバ」。

ウバは、スリランカを代表する高山の茶産地。インド・ダージリン、中国・祁門と並び、世界でも広く親しまれています。最大の特徴は、独特の香り。ミントのように爽やかな香気と力強い味わいは、ほかの紅茶では味わえない特別なものです。その風味が最も強まるのが、南西モンスーンが吹く例年7月〜8月頃。香りが良いのでストレートティーで飲むのがおすすめですが、爽やかなウバならではのミルクティーも楽しめます。

「初めて飲んだ時に、スーッと鼻に抜ける独特のミント香に衝撃を受けました」(Bさん)
「数ある紅茶の中でも、ウバのクオリティーだけを飲む友人がいます。クセが強いですが、その分とりこになる人も多いです」( Dさん)
ルピシアのウバ

07.ミルクティーといえば「アッサム」。

インド北東部に位置するアッサムは、世界最大級の紅茶産地。アッサムを原産とするアッサム種の茶葉は、中国種と比べてタンニンを多く含むため力強く濃厚な風味、深みのある赤い水色が特徴です。収穫・生産期は例年3月〜11月頃。中でも、甘みやコクのある味わいが楽しめる6月〜7月頃のセカンドフラッシュ(夏摘み)が有名です。そのままストレートでもおいしく味わえますが、ミルクとの相性も抜群で、ミルクティーやチャイ好きに人気の高い産地です。

「買い付けのテイスティングでは、必ずミルクを加えて相性を確かめています。ルピシアには、ミルクティー用に推せる茶葉がそろっています」(Cさん)
ルピシアのアッサム

08.紅茶の味は、産地や茶園で大きく異なります。

インド・ダージリン茶園の中でも世界中に多くのファンを抱えるマーガレッツホープ茶園、朝の風景。

紅茶は現在、インドやスリランカ(セイロン)、ネパール、台湾、ケニアなど多くの国で栽培されており、産地によって香りや味わいが大きく異なります。中でも、国内でいくつもの産地を持つインドやスリランカは、同じ紅茶でも環境や標高による栽培品種の違い、茶園ごとの製茶方法や仕上がりのイメージによって、それぞれの風味が異なるので、飲み比べてみるのも楽しみのひとつです。

「紅茶の味の多様性は、産地の違いによるところが一番大きい気がします」(Cさん)
「ワインにたとえると、同じ品種でもフランスやオーストラリアなど産地によって味わいが異なります。さらに、それぞれのワイナリーごとに個性があるように、お茶も茶園によっても違いがあります」(Dさん)

09.フレーバードティーを知ると世界が広がります。


心地よい香りを嗅ぐと、リラックスできたり、気分が明るくなったり。香りにはさまざまな力があります。アールグレイに代表される、爽やかなフルーツの香りや花の香りなどをつけたフレーバードティーは、見た目も美しい商品が多くあります。ガラスのポットでいれるだけで、心も和みます。

甘い香りのフレーバード紅茶のミルクティーは、香りに癒やされるのはもちろん、おやつやデザート感覚で楽しむことも。スイーツのような香りに満足感も得られるので、甘いものを控えたい時の強い味方にもなります。

「キャラメルクッキーのような、甘い香りの『クッキー』を飲んで、ダイエットに成功した友人がいます(笑)」(Cさん)
クッキー – 50g 袋入
「初めてフレーバードティーを飲まれる方におすすめしたいのは『マスカット』です。自然な香りで、どなたでも親しみやすいと思います」(Aさん)
マスカット (紅茶) – 50g 袋入
ミルクティーにおすすめなスイーツの紅茶

10.茶葉のサイズや製法の違いは、「飲み方」で選ぶ。

現在流通している紅茶は、基本的に摘んだ茶葉(リーフ)の形を残すオーソドックス製法か、CTC製法に分類されます。オーソドックス製法には茶葉を揉み込む工程の後に、葉を切断するセミオーソドックス製法もあります。

CTCとは、Crush(潰す) Tear(引き裂く)Curl (丸める)の略で、専用の機械を使い、茶葉を細かく砕いて成形しています。

同じ紅茶でもダージリンなどオーソドックス製法によるフルリーフの高級茶は、繊細な味わいが楽しめるため、主にストレートティーに向いています。一方、CTCはコクがあり力強い味わいになるので、ミルクティーに最適です。

「アッサムは、CTC製法の発祥地。濃厚なミルクティーを飲みたい時は、細かい茶葉で甘みやコクがしっかり出るCTCを選ぶと間違いがありません」(Bさん)

11.紅茶をおいしくいれるコツは「味見」です。

紅茶をいれる時に、「ちょっと渋かった」「香り立ちが弱い」という失敗はよくあるもの。大きめの茶葉は浸出時間による変化が大きく、ブロークンタイプのウバなど細かくカットされた茶葉は、短時間で風味が出る反面、時間が長くなるほど渋みが出やすくなります。茶葉の浸出時間はあくまでも目安。細かい茶葉は、数十秒変わるだけで風味が大きく変化します。まずは味見をして、おいしくなってきたタイミングで茶葉を取り出し、完全に注ぎ切りましょう。

「蒸らす目安時間の〝少し前〞の味見がポイントです」(Bさん)

12.150年以上にわたる論争に決着!? ミルクティーの完璧ないれ方とは?

あなたはミルクティーを作る際に、ミルクを先に注ぎますか? それともミルクは後ですか? イギリスでは長らく、ミルクと紅茶、どちらを先にカップに入れるべきかという論争が繰り広げられています。この論争に、科学的な観点から結論が出されています。2003年、英国王立化学協会が『How to make a Perfect Cup of Tea(完璧な紅茶のいれ方)』を発表。その答えは、「まず、ミルクを先に注ぐべき」。理由は、高温によってミルクの味が悪くなることを避けるために、まずミルクを入れ、それから熱い紅茶を注いだほうがよいとしたようです。とはいえ、好みはフィーリング次第。英国人の好むシニカルな冗談が終わらないのと同様に、論争はまだまだ続くことでしょう。

「ルピシアの基本の作り方は、後からミルクを入れる方法です」(Bさん)
「ポットの時はミルクが先。カップでいれる時はミルクが後。ミルクを先に入れたほうが、カップに茶渋がつかないので実用的です」(Cさん)
「お客さまに〝ミルクの量はどれくらい入れたらいいの?〞とよく質問されます。そんな時は、お好きなミルクキャラメルと同じ色にして飲んでみてくださいと答えています」(Aさん)
ミルクティーを楽しもう!

13.紅茶は自由な飲みものです。

あなたがもし、「いれる手順が細かくて面倒そう」などの理由で紅茶を飲むハードルを上げているのなら、それは誤解かもしれません。
基本の紅茶をいれる時のポイントは3つだけ。
(1)ポットやカップを温めておく。
(2)茶葉の量を正確に量る。
(3)熱湯でいれる。
あとは自分の好みで紅茶を楽しめたら、それが一番。うんと自由に楽しみましょう。

「いれた後に渋いなぁと感じたら、お湯で割っていいんです。自由に調整できるのが、紅茶のいいところです」(Dさん)

14.紅茶とお菓子のペアリングは無限大。

紅茶の特徴に合わせてお菓子を選ぶか、お菓子の味に合わせて紅茶を選ぶか。紅茶とお菓子のペアリングは無限にあり、ありとあらゆるお菓子を自由に組み合わせられる楽しみがあります。チョコレートを例に挙げると、どんなチョコレートにも合う紅茶の筆頭格が、イギリス伝統のフレーバードティー、アールグレイ。上品なベルガモットの香りが、高級感までプラスしてくれます。自分のお気に入りのペアリングを自由に探してみてください。

「ダージリン ファーストフラッシュは緑茶に近い味わいなので、あんこ系など和菓子にも合います」(Aさん)
「イチゴやリンゴなどのフルーツとニルギリは好相性です」(Bさん)

15.ギフトに人気の紅茶は、ビジュアルのいいお茶です。


紅茶を贈りたいと思っても、何を選んでいいのか迷ってしまう人も多いはず。そんな時は、プレゼントを贈るシーンに合わせたり、自分の好きな紅茶をセレクトするのが近道かもしれません。たとえばお祝いの場面なら、縁起のよい名前のお茶や華やかな香りのお茶がぴったり。カラフルなビジュアルのフレーバードティーも人気があります。

「初心者の方は、茶葉の美しさを重視する人が多いです。個人的にはビジュアルと香りがいいフレーバードティーが推しです」(Aさん)
「誕生日には『バースデイ』という紅茶がおすすめです」(Bさん)
「私は紅茶をおいしくいれてあげることもギフトのひとつだと思い、そういう機会を作っています」(Cさん)
バースデイ – 50g 袋入
メルシー ミルフォワ – 50g 袋入

16.カップは内側に注目してみる。

紅茶の大切な要素は、色・味・香りです。ティーカップは、これらを引き立てるアイテムでもあります。ひと口にカップといっても、形状や材質、口当たりなどポイントを挙げればキリがないほど。自分が気に入ったものを選ぶのが一番ですが、紅茶がおいしく見える「色」に着目してみるのもおすすめです。その際に決め手となるのはカップの内側で、紅茶の色がよく分かる白がベターです。

「白にもさまざまな色調があり、牛の骨粉を加えたボーンチャイナは温かみのある印象の白色、マイセンなどの磁器は青みを帯びています」(Dさん)
「紅茶の種類によって紅茶の色は驚くほど違います。紅茶の色によってカップを使い分けるようになると、立派な紅茶通です」(Bさん)

17.「紅茶の日」に思いを馳せてみる。

11月1日は「紅茶の日」。鎖国下の18世紀後半、江戸時代後期に、船頭であった大黒屋光太夫(だいこくやこうだゆう)が駿河湾沖で遭難。アリューシャン列島からシベリアに渡り約10年間のロシア滞在中、1791年の11月に首都サンクトペテルブルクにて、日本人として初めてロシア皇帝エカテリーナ2世に謁見し、宮廷のお茶会に招かれたとされる逸話を元に定められた記念日です。

帰国後の大黒屋光太夫の回顧録によれば、謁見の際にエカテリーナは光太夫を抱擁しキスで歓迎し、並び立つ100名ほどの女官もそれに続いたといいます。光太夫は50〜60名とキスした後に気絶、介抱され気をとりもどすと、行列をして待っていた残りの女官とキスをしたとも……。首都滞在中、女帝に気に入られた光太夫は、何回も呼び出されたという、好奇心旺盛で恋多きエカテリーナらしい(?)エピソードも残されています。

(写真:「紅茶の日」限定のお茶エカテリーナ)

「美食家としても知られるエカテリーナ2世。ベリーやリンゴを煮詰めた素朴な菓子(レヴァシ)が好物だったと伝わっています」(Eさん)
出典:山下恒夫『大黒屋光太夫』( 岩波新書)

≫ 紅茶のおいしい いれ方はこちら

関連記事

特集「お茶好きの茶話会」

今日は大のお茶好きスタッフが集まって、愛すべきお茶の魅力を語り合う「茶話会」を開きました。「これだけは伝えたい!」お茶の魅力を、厳選してご紹介。

続きを読む