おいしいお茶づくりとは、収穫最盛期を迎える春夏のみにあらず。
一年を通じ茶畑と向き合う生産者と、その知られざる舞台裏に迫ります。
お茶づくりの舞台裏
気づけば2020年も残りあとわずか。今年一年は、世界的に誰も経験のない大変な年になりました。茶園を稼働させることも難しい中、おいしいお茶を食卓に届けてくれたのは、他ならぬお茶農家の皆さんです。日々お茶一杯を飲むにつけ、そのありがたみを実感します。
そもそもお茶づくりというと収穫や製茶のシーズンは想像しやすいですが、そのほかの時期に生産者の方が何をされているのか、意外と知らない方も多いのではないでしょうか? 土壌づくりや茶樹の手入れ、同じ日本茶であっても、生産者によってその苦労やこだわりは様々。季節が変わるたび、何に気を遣い、どんな仕事をされているのか、普段知ることのできないお茶づくりの舞台裏を覗いてみましょう。
おいしいお茶は 健康な土づくりから
春到来のうれしい便りとともに、新茶の季節はやってきます。日本では3月末~7月頃にかけて、茶樹は絶え間なく成長を続け、その間に一番茶、二番茶と茶摘みの最盛期を迎えます。奈良県・月ヶ瀬に茶園を持つ井ノ倉さんによると「シーズン中は24時間フル稼働です。昼は収穫、夜は工場で製茶。とにかく動き続けないと、葉の成長するスピードに追いつけない」のだそうです。
井ノ倉さんの茶園では、二番茶が摘み終わるとすぐに、次の春の新芽のために土壌づくりに入ります。「春夏で茶樹は養分を使い切って息切れしている状態なので、土を肥やして栄養を蓄えさせます。ただ、冬越えとなると堆肥を与えすぎても寒さに負けてしまうし、その調整に非常に気を遣う」と話します。
有機栽培ならではの 大自然との戦い
夏の間に伸びるのは茶樹だけではありません。ようやく茶摘みが落ち着いてきた9~11月は、茶樹の周りの雑草や立木の枝を刈り落としたり、茶園の整備をします。宮崎県・五ヶ瀬の釜炒り茶の達人・興梠(こうろぎ)さんの茶園は完全無農薬の有機栽培。そのため「草やら虫やら猪やら、毎日が大自然との戦い」なのだとか。「一ヵ月間毎日草取りをしても、次々と雑草が生えてしまう。茶樹は弱り始めると早いので、日々の手入れが欠かせません。最近は少しずつ茶園を拡張しているが、人手は足りていないのが現状」といいます。
11月以降、山の食料が少なくなる冬には、猪が茶畑に下りてきて土を掘り返して荒らすことも珍しくありません。「網を張ったり大事な幼木は電気柵で囲ったりしていますが、すり抜けて入ってしまうことも。毎年の試行錯誤で被害は収まってきました。苦労はありますが、それでも自分のお茶は有機でつくることにこだわりたいんです。有機でつくったお茶は飲めばすぐに分かりますよ、香りや味に生きていますから」と興梠さんは話します。
新茶への期待膨らむ また新たな春へ
2月頃、茶樹は冬眠から目覚めるかのように成長を再開させます。いよいよ新茶シーズン目前、生産者の方にとっても慌ただしい日々の始まりです。「今年一年感じていたことは、やはりこんな状況だからこそ、おいしいお茶を届けなくちゃという想いです。家にいる時間が長いと何となく気分も落ち込んでしまいますが、そんな時にいれたお茶がおいしければ、それだけでも喜んでもらえるんじゃないかと」。こう話すのは静岡県・本山でお茶づくりに励む高橋さんです。
改めて生産者の方のお茶づくりにかける想いを伺うと、毎日何気なく楽しんでいるお茶のおいしさが、より一層引き立つのを感じます。「また来年、おいしい新茶を届けますから、楽しみにしていてください」と笑顔で話す高橋さんの声は力強く、とても印象的でした。
世界各地の茶園では今日も、おいしいお茶を届けるため、お茶の葉一枚一枚に想いを込めて冬越えの準備をしています。5月頃には旬の魅力が詰まった新茶を、ルピシアだよりでご案内できる予定です。来年は明るい一年になることを願いながら、来(きた)る春を楽しみに待ちましょう。
ダージリン 茶園より
インド・ダージリンではちょうど秋摘みの収穫が終わり、これから2月までは茶樹の休眠期間です。冬の間は茶葉が成長しないため、主に茶園のメンテナンスを行っています。特に重要な作業は茶樹の剪定で、茶園のエリアや状態に合わせて刈り込みの深さを変えることで、翌年の春摘み、夏摘みなどのシーズンにちょうど良く新芽が芽吹くように調整しています。
キャッスルトン茶園では皆が向上心を持って、これまで以上においしいお茶をつくれるよう努めています。来年もきっと皆様に素晴らしい品質の春摘み(ファーストフラッシュ)をお届けできるでしょう。ぜひ楽しみにお待ちください。