
シルバーオークの樹木が立ち並ぶニルギリの茶園
古き良きインドの面影を今に伝える、南インド最大のお茶産地ニルギリ。
その青々とした山々は、美と豊穣、幸運と繁栄を司るヒンドゥー教の女神に守られる特別な聖地。
19世紀以降、英国人好みの高山リゾートとして、またお茶以外にもコーヒーや高原野菜、ハーブやスパイスなどの生産地として整備されてきました。この豊かな紅茶産地を、「おたより。」取材班が探ります。
特集「豊かな南の青い山 ニルギリ」目次
南インド最大の紅茶産地ニルギリとは?
「ニルギリ」は、世界最大の紅茶生産・消費国であるインドのダージリンやアッサムと並ぶ、南インドを代表する紅茶の名産地。セイロンティーの産地として知られるスリランカの西側、南インドの山岳エリアに位置するニルギリの茶園は、西ガーツ山脈の南部ニルギリ丘陵の高地およそ1,000〜2,500mエリアに点在しています。
低地では主にCTCなど、高地では伝統的なオーソドックス製法の紅茶を中心に製造され、特に標高の高いエリアでは1〜2月の冬の季節風による冷たく乾いた風によって、茶葉がゆっくりと成長し風味が凝縮。柑橘などの果実や高山に咲く花々を想起させる、豊かな芳香と爽やかな味わいを持つ高品質なお茶が製造され、「香りの紅茶」として世界中の紅茶ファンから愛されています。


ダージリン・ヒマラヤ鉄道とともにユネスコ世界遺産「インドの山岳鉄道群」に指定されるニルギリ山岳鉄道。
12年に一度、幻の花が咲く「青い山」
現地タミル語で「青い山」を意味する「ニルギリ」。そう呼ばれる理由は2つあります。1つは、平地から見た山々が青いもやに包まれて見えること。もう1つは、ニルギリの固有種で12年に一度開花するという幻の花「ニーラクリンジ」が山一面を青く染めることに由来します。近年では、2006年と2018年に開花した報告が残されています。

ニルギリのシンボル、ニーラクリンジについての説明パネル。

12年に一度だけ開花するニーラクリンジの花。
古くからの土着的文化が今も色濃く残る南インドの中でも、ニルギリ周辺の山岳エリアは、先史時代より人々が生活してきた遺跡が残されている特別な土地。12世紀頃にはインドの美と豊穣、幸運と繁栄を司るヒンドゥー教の女神〝ラクシュミー〞を祀る聖地として知られました。また、19世紀以降のイギリス植民地時代に、熱帯地方でありながら高山エリア特有の冷涼で過ごしやすい気候から、山岳リゾート地や高原別荘地として開発されました。同時にヨーロッパ原産の野菜の栽培地として、またコーヒーや紅茶のプランテーションとしても丘陵地帯の開墾が進められました。

現地ホテル食堂にて。朝日が美しくて息を飲みました。

緑に囲まれた庭園の東屋。
多様性と独自性がニルギリ最大の魅力
世界的に名高いダージリンやアッサムなどインド北東部産の紅茶は、伝統的に西ベンガル州のコルカタのオークションを経由して世界中に届けられます。しかし南インドに位置するニルギリは、古代から知られるチェンナイ、コーチンなどの貿易港にて、特産品のスパイスや果実とともに出荷されるため、売買や出荷についても独自のルールが守られています。
また、19〜20世紀の英国統治時代、世界中から集められた有用植物の生育調査などが進められた経緯から、品種改良の技術や自然科学の調査が進み、お茶に関しても特有の製法や研究が進んでいるという背景があります。
そのため、ダージリンやアッサムとは異なるオーソドックスタイプの紅茶、緑茶、白茶、烏龍茶など多彩なプレミアムティーが製造されるなど、多様性と柔軟性に富むのもニルギリの茶園の特徴といえます。
インド人の「心の故郷」原風景を残す南インド
多様な人種と言語が混在し、民族、宗教、階層、文化など、人々の暮らしに今も歴史的背景が色濃く残る広大な国、インド。
中でも南インドは、五千年の歴史を持つ伝統医療法アーユルヴェーダ発祥の地としても知られています。また食文化においては、西アジアに起源を持つ麦の文化が発達し、ナンやチャパティなどパンを主食とする北インドに対し、米を中心にフレッシュハーブや魚介類などを多用した、あっさりした味付けの料理を好むという特徴があります。
さらに、16世紀に中央アジアから進出し、インド各地を支配したムガル帝国下でイスラム文化の影響を受けずにきた土地として、地母神や女神が活躍した原始の神話や古き良き風習、ゆったりとした空気と自然が残されている地でもあります。
現在の政治の中心であるデリーや、巨大な貿易都市コルカタとは異なる、「インドの原風景」が残される南インドは、インドで暮らす人の多くが憧れるヒンドゥー教の聖地、また「心の故郷」ともいうべき特別な場所でもあるのです。
クオリティーシーズンのニルギリ、いざ茶園へ
インド亜大陸の南部に位置する広大な半島エリアの南インド地域。ニルギリのお茶産地のあるタミル・ナードゥ州ニーラギリ県は、東海岸の東ガーツ山脈から西海岸の西ガーツ山脈に至る台地、デカン高原の丘陵地帯に位置する標高1,000〜2,600mの高山エリアです。
南国の豊かな自然に囲まれた高地で育まれるニルギリ紅茶は、北部のダージリンやアッサムと異なり、年間を通じて収穫されるという特徴を持ちます。中でも1〜2月は最も品質の優れた香り高い紅茶ができるクオリティーシーズンとされ、私たち「おたより。」取材班は、収穫を控えた12月にニルギリへと向かいました。
まずは、成田空港からインドの北西部アラビア海に面する都市ムンバイまで直行便で約10時間のフライトの後、翌朝国内線にてニルギリの最寄り空港であり南インドの玄関口コインバトール空港に約2時間半で到着。いよいよニルギリの茶園を目指し、車を走らせます。

車窓からはバナナの畑や野菜・果物売りやココナッツのジュースを売る女性をたびたび見かけながら、草むらには野生のクジャクなどもいて、しばらくのんびりとした風景が広がります。茶園へと続く山道に入る前に、ミルクと砂糖がたっぷり入った南インド式コーヒーで休憩。2時間ほどのドライブで今回訪れる茶園に程近い街、クノールの宿泊先に到着しました。気温は13度、北部のダージリンに比べると寒さは緩やかで、過ごしやすく感じます。

野生のサルがお出迎え(?)。

路上のココナッツ売り。
特集「豊かな南の青い山 ニルギリ」目次
ニルギリの魅力を再発見
果実や花々、ハーブを思わせる「香り」の余韻、南国らしい「明るさ」を持つ風味、透明感とキレのある飲み口の「爽やかさ」などに、ニルギリの明確な個性と魅力が感じられます。進化していくニルギリのお茶に注目。
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